「別表の売掛金」と「貸借対照表の売掛金」の不一致について教えてください

 

例えば、売上金額が約10億円、所得金額は毎期数千万円を計上している金属材料の卸売業をおこなう同族会社があるとします。売上先が多数に上り、売掛金の管理がむずかしく未入金先もあります。問題となっているのは、貸借対照表の売掛金の金額より貸倒引当金の別表に記載された個別評価債権の売掛金の金額のほうが多いので、貸倒引当金の繰入額が過大になっているのではないかということです。また、個別評価債権40,000千円に対して20,000千円の貸倒引当金を計上していたが、反面調査の結果、個別評価債権は30,000千円であるから繰入限度額は15,000千円であり、差引き5,000千円が繰入過大となっており修正申告する必要があるようです。
なぜ貸倒引当金の別表に記載された個別評価債権の売掛金の金額が貸借対照表の金額より多いのか、例えば、品物を買ってもらっていたお得意さんの入金が途絶えがちになってしまい債権償却特別勘定を計上、その後、売掛金の一部が入金されて営業部が売掛台帳に入金処理したようだが、申告書を作成する担当者への連絡が徹底していないため貸倒引当金の別表上の売掛金の金額が以前のままというケースが考えられます。
しかし、申告書の別表に記載している売掛金の金額が実際の売掛金額より多いので、正しい売掛金額を基準にして再計算するしかないわけです。別表には個別評価債権として40,000千円記載し、その50%の20,000千円を貸倒引当金として計上していましたが、実際の個別評価債権金額は30,000千円なので橾入限度額は15,000千円であり、差引き5,000千円が繰入過大となっているということです。よって、5,000千円修正申告しなければなりません。こうした事実関係に加えて、法律的な根拠として次のような説明ができます。
・貸倒引当金は、法人税法第52条の規定に基づき、個別評価金銭債権の弁済の見込みがないと認められる部分の金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額に達するまでの金額しか損金算入は認められない。
・政令で定めるところとは、調査したところによると施行令96条1項第3号のホに規定されているイからニに準ずる事由、すなわち会社更生法や民事再生法、破産法等に基づく更生手続き開始の申し立てに準ずるものとして定められている事由、つまり法人税法施行規則25条の3に規定する手形取引停止処分に該当するため、当該個別評価金銭債権の百分の五十に相当する金額しか損金算入は認められない。
したがって、5,000千円が過少申告となっていると判断できるわけです。しかし、法人税法施行令96条の1項二号を適用することで損金算入が求められるとも考えられます。規定を見ると、債務者が長期間債務超過であったり、事業に好転の見込みがなかったり、経済事情の急変などにより多大な損害が生じていたり、個別評価金銭債権の一部の金額につき取り立ての見込みがないなどの場合は、その金額を損金の額に算入できると書いています。これに該当し、さらに、この売掛金の発生は十数年前のものであること、この取引先は完全に消滅したわけではなく細々と営業しているためなかなか貸倒損失としにくいこと、しかしながら社長が高齢のため、事業が好転する見込みはないこと、にもかかわらず自宅があるためまったく取り立ての見込みがないわけでもないことなど、必要な補足説明を加えながら主張すること。その上で、確かに別表に記載した売掛金の金額は間違っていたが、実際問題として別表に記載した貸倒引当金の金額を、取立て見込みのない金鎖と解釈して損金算入できると考えてもいいのではないでしょうか。
こんな問題にしないためにはどうすればよかったのか。必要なことは、損益計算書、貸借対照表に記載された各勘定科目の数字と別表に記載された科目、数字を必ず一つずつ突合すること、申告書に添付する内訳明細書に記載している数字とも確実に突合し、間違いのないようにすることです。こんな簡単なことかと思われるかもしれませんが、小さな仕事を怠けず着実に行うことが結果として、税務調査の正しい受け方、上手な受け方につながります。むずかしいと思うことは誰もが十分に注意しますが、こういう簡単なことはおろそかになるものです。この気の緩みから水が漏れていくものなので、ぜひ心に留めておいてください。この事案にかかわらず、一般的にいえることですが、当局の指摘に対して何となく漠然と考えていても、いい考えは何も浮かんできません。答えは自分の頭の中からではなく、条文の中から探しましょう。税務上のことは税法の条文に即して考えるということが必要です。条文の頭で考え、条文の言葉で話すということが必要になります。以下に参照した条文を載せておくので確認しましょう。
法人税法(貸倒引当金)
第五十二条 内国法人が、会社更生法の規定による更生計画認可の決定に基づいてその有する金銭債権の弁済を猶予され、又は賦払により弁済される場合その他の政令で定める場合において、その一部につき貸倒れその他これに類する事由による損失が見込まれる金銭債権(以下この条において「個別評価金銭債権」という。)のその損失の見込額として、各事業年度において損金経理により貸倒引当金勘定に繰り入れた金額については、当該繰り入れた金額のうち、当該事業年度終了の時において当該個別評価金銭債権の取立て又は弁済の見込みがないと認められる部分の金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額(略)に達するまでの金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。
施行令九十六条一項二号
二 当該内国法人が当該事業年度終了の時において有する個別評価金銭債権に係る債務者につき、債務超過の状態が相当期間継続し、かつ、その営む事業に好転の見通しがないこと、災害、経済事情の急変等により多大な損害が生じたことその他の事由が生じていることにより、当該個別評価金銭債権の一部の金額につきその取立て等の見込みがないと認められる場合(前号に掲げる場合を除く。)当該一部の金額に相当する金額
施行令九十六条一項三号
三 当該内国法人が当該事業年度終了の時において有する個別評価金銭債権に係る債務者につき次に掲げる事由が生じている場合(略)当該個別評価金銭債権の額(当該個別評価金銭債権の額のうち、当該債務者から受け入れた金額があるため実質的に債権とみられない部分の金額及び担保権の実行、金融機関又は保証機関による保証債務の履行その他により取立て等の見込みがあると認められる部分の金額を除く。)の百分の五十に相当する金額
イ 会社更生法又は金融機関等の更生手続の特例等に関する法律の規定による更生手続開始の申立て
ロ 民事再生法の規定による再生手続開始の申立て
ハ 破産法(平成十六年法律第七十五号)の規定による破産手続開始の申立て
二 会社法の規定による特別清算開始の申立て
ホ イからニまでに掲げる事由に準ずるものとして財務省令で定める事由
財務省令=法人税法施行規則
(更生手続開始の申立て等に準ずる事由)
第二十五条の三 令第九十六条第一項第三号ホ(貸倒引当金勘定への繰入限度額)に規定する財務省令で定める事由は、手形交換所(手形交換所のない地域にあっては、当該地域において手形交換業務を行う銀行団を含む。)による取引停止処分とする。
施行令九十六条四項
4 内国法人の有する金銭債権について第一項各号に規定する事由が生じている場合においても、当該事由が生じていることを証する書類その他の財務省令で定める書類の保存がされていないときは、当該金銭債権に係る同項の規定の適用については、当該事由は、生じていないものとみなす。
施行令九十六条五項
5 税務署長は、前項の書類の保存がない場合においても、その書類の保存がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるときは、その書類の保存がなかった金銭債権に係る金額につき同項の規定を適用しないことができる。

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